1−1 総力戦と国家総動員


簡単にいえば、戦争は国家の全ての力を戦争のために注がなければならないということである。
もちろん有史以来数々の戦争が各地で行われてきており、それぞれが周到な準備をし、研究を行い勝敗が決してきたわけであるが、第一次大戦以降、その形態は大きく変わってきたのである。
戦争は単に戦術的な勝利を収めるだけでは勝つことは出来ず、国家の全てを戦争に傾注しなければならないことがドイツの敗戦により明らかになった。
つまりは使用される兵器が剣から銃砲になり、あるいは戦車・航空機(飛行船)など近代戦の様相を呈するにあたり、その生産技術の研究や施設の拡充方法について、または膨大に消費される弾薬の補充や兵器生産に必要な資源物資の輸送や調達について、あるいは相手側国民に厭戦感を与えるための思想謀略戦等あらゆる方面の力のぶつかり合いとなってきたわけである。
これが総力戦であり、これからの戦争では軍事だけでなく政治・経済あらゆる分野における戦争遂行能力についてその向上を図らなければならないと言える。

また、よく戦前中において「国家総動員」という用語が頻出するのだが、これは総力戦遂行のため、国家総力をもって準備すべき態勢への移行準備、移行行為、移行後の態勢をいい、総力戦の概念に包括されるものである。


のちに陸軍省軍務局長として辣腕を奮った永田鉄山臨時軍事調査委員は大正9年5月に「国家総動員に関する意見」と題する報告書を作成した。
その中で国家総動員とは、

一時もしくは永久に国家の権力内に把握する一切の資源、機能を戦争遂行上、最有効に利用するごとく統制按配するを謂う

と定義した。
中でも次の5項目について必要な動員を行わなければならないとした。


国民動員  国家全人員の力を戦争遂行の大目的に向けて集中するために国民を統制すること
産業動員  軍需品補給の目的を達成すると同時に、国民生活確保に必要な鉱工業、農業の生産を統制し、物量及び動物の所持・移動・取引・消費を規制すること
交通動員  交通機関を所要に応じて適当に統制し、戦争や国民生活上の要求を充たすため、最善の能率を発揮させることである
財政動員  戦時にあたり、巨額の資金を迅速確実に調達し、またこれによって金融市場に恐慌を起こさせないよう財政上の政策を行うこと
精神動員  総力戦を戦い抜くうえで不可欠とする国民の愛国心、奉公心、犠牲的精神を獲得し、民心の鼓舞を図ること


さらに永田はこれら動員を所管する中央統制機関の必要性もうたっていて、その任務として、

(1)   資源調査、その他動員上必要な諸調査の統一
(2)   国防資源保護増強に関する審案
(3)   国家総動員全般に関する事項の画策
(4)   国家総動員に関する各省の業務統制
(5)   主要なる国家総動員法規の起案
(6)   各省等によりする要求の調整、資源の配分に関する考案の決定
(7)  国防科学研究および総動員の準備上必要な各種実験・研究の統一

をあげている。
ちなみにこの機関の仮称として「国務院」と名付けられたものは、その後「企画院」という名で実現することになるのである。



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